「先生、教室まで自転車で来てるんですね。私もなんです」と嬉しいことを言ってくれる女性が、私の担当する某大学の建築設計製図のクラスにいた。彼女が乗ってるチャリは、クロス・バイクとの話だったが見るとMTBだった。なんと10年前に5万で買ったもので、殆ど整備されてなく、チェーンはうっすらと錆が付いていた。チェックするとチョット伸びていて既に十分交換時期を過ぎている。聞けば自宅は千歳船橋だという。私の居る経堂の隣駅ではないか。片道15㎞を超えるところからの通学ではある。スクーリングの三日間だけとは言え、往復で30数キロ走っていることになるが、別にその距離を苦にしているようには見えない。
一日目の授業が終わって、表参道の私の事務所のあるところまで一緒に帰ることにして、比較的ゆっくりと走り始めたが、危険なので後ろに付いてくるように言ったにもかかわらず、併走するような走りになってしまった。ちょっと危ないとの思いで、踏み込んで走り始めたところ、何の問題もなく付いてきた。実に気楽に自転車に乗ってて、後ろから何やかんやと話しかけてくる。赤信号で止まれば、隣に来てニコニコしながら喋る。ヘルメットも被らず、大きめのバッグを肩から斜めがけに、長い髪をセクシーにかき上げ楽しそうにしている。流石にチャリンコ歴十年の事だけはあるのだ。3年チョットの私の経験以上で、私の大先輩ではある。
2日目は遅刻気味で、始業前に教室のテラスから前の道路を見てたら、黒の半ズボンで颯爽と教室のあるビルの前に到着し、駐輪した。上から見ていると遅刻ぎりぎりにもかかわらず、隣のローソンに向かい、出席を取り始めると彼女だけ返事がない。隣の学生からチャリンコの子です、とのこと。さっきローソンに出かけたのを上から見てたし、遅刻もしてない出席扱いとした。どうやらトイレで着替えてたみたい。気付いたときには普通のジーンズに着替えていた。授業の後は表参道で友達と会うとのことで、同じく後ろに付いてきた。私は普通に走ったが、問題なく付いてきたとは言え、昨日同様、やはり麻布の交差点からの登りでは少々の遅れを取っていた。
三日目は、彼女に先に行かせ私は後に付いた。「じゃーね」と別れの挨拶の後、勝手に帰ってもらったのだが、私は後について走ってみた。彼女、困ったことに、なかなかやってくれちゃうのよね。「赤でも行けるのは自転車の特権ですよね」などとほざいていた通り、赤信号は無視。後ろからついて行くと、車が混み始めると平気で歩道を走る。そうなると私はついて行けず、六本木ヒルズの所で見失ってしまった。履いてる靴はヒールの高いサンダル風な奴。ジーンズの裾から女性らしいサンダルがのぞき、いたって安易にチャリンコに乗っている。ヘルメットも被らず、自由奔放にチャリを操るこの手のおネーちゃんが、我々真面目なロード・バイク族には迷惑なんだよね。困ったもんだ。
今の世の中、男女同権ではある事は当然のことであり、男だから、女だからで評を下すことはない。ただ、同権ではあるが同種ではない。生物学的な男女の差は、それぞれが持つ価値観や才能などでも違いがでる。建築の設計製図を教える立場にもある私ではあるが、デザインについての感性はおしなべて女性の方が高いが詰めが甘いとも言える。建築のデザインは女性に向いているような印象を持っているが、詰めが甘い分、拘り方が甘く、おおざっぱな所がある。男はその点、妙なところにやたらに拘り、その拘っている事の自覚がない。やたらに几帳面で細かいのは、圧倒的に男子学生に多い。
ロード・バイクに拘りを持つのはほとんど男性だ。著名な建築家にハゲはいないが自転車好きにハゲは多い。その辺の不思議について、とある場所で、失礼千万にも自転車界では著名な疋田智氏に質問してみた。彼は完璧なハゲ(誠に失礼)である。「そんな質問、受けたの初めてだなー」の困惑の末「単なる偶然だと思う、とは言え、確かに多い」との言を得た。私流の解釈では、頭髪は女性ホルモンに関わっているので、女性的な素養が備わっているデザイン系の仕事で著名な人には少なく、反面、自転車を含めカメラやオーディオなど機械、電気モノが好きな人種には男性ホルモンが多く、頭髪が薄くなりハゲが多いとの解釈だ。どうだろう、間違ってますかね。私は男性ホルモン過多のハゲに近く、本来は建築の設計には向いていないとも言えるメカ好きな自転車大好き人間ではある。
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